学生時代、私の絵画の担当者であり、また油彩画の作家でもあったこの先生が版画(リトグラフ)を試みました。当初の計画では3版程度で、色の重ねを考慮して5〜7色で完成する予定でした。しかし、油絵を描く作家の性(さが)、当初のイメージに反し、色の深みが足りないと感じ、新たに版をおこすこと10数回。結局、先生が筆(リトペンシル)を置いた時には色彩の深みは増しましたが、その分、色彩の輝きは失われてしまっていました(と、私には感じられました)。
この時の体験が大きなきっかけになり、私自身、色彩銅版画では極力版数を減らし、色が持っている本来の輝き、あるいは色の力を最大限に生かそうと試みています。そのために、色彩を施す版は特別の場合を除き、銅版画といえども凸版形式で印刷します。凹版形式の刷りでは、インクを版から取り除く際にメッキをしない限り、銅と布(寒冷紗)との摩擦から生じる発色の減退、または色の種類によっては、色合いまでをも変化させてしまうからです。色版を凸版形式で印刷すること自体、さして目新しいものではありません。しかし、私にとって、この方法は色彩銅版画の弊害を少しでも避けたいがための苦肉の策なのです。
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