.. 浜西勝則 私の作品技法 ..  English  日本語

メゾチント本来の意味((mezzo = half = 中間) + (tinto = tone = 色調))から、
カラーメゾチントへの発展、そして金属箔を用いる作品技法の一端をご紹介します。

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    私のカラーメゾチント

 

 

リサイクル版画


私のカラーメゾチントと題して改めて記するほどのこともなく、一般入門書に紹介されている程度の技法と思われるが、あくまでも私的な作品制作とその中から生まれた技法とについて述べたいと思う。

 かって銅板画に手を染めた誰しもが一度は通過しなければ気の済まないテクニックの虜(とりこ)に、ご多分に漏れずはまってしまった。人はこれを称して“銅版画の麻疹(はしか)にかかった”と言うらしいが多種多様な呼び名すら与えられていない技法の試みに明け暮れていたものである。これら無限とも言うべき技法の中からもっともシンプルな方法であるメゾチントを選んだのは、この技法から生みだされる漆黒な色面の魅力にもまして、その色面を削り出す事により得られる柔らかい調子の変化に興味を持ったからであった。面の変化で表現できることが何よりも魅力的であった。銅版画におけるもっとも代表的な技法であるエッチングでは線の種類、粗密により濃淡を表現しなければならないのに対し、西洋的学習方法としての基礎木炭デッサンから始めた者にとっては面の調子で表現できることは至極、試み易かった。メゾチントは光の変化を明暗の諧調に置き換える方法として、無理なく版上に実現できたからである。長い間、ひたすら白黒の魅力に取り付かれ、カラーメゾチントを試みようと思った事もなかった。もちろん、浜口陽三、アバティなどのカラーメゾチント作品に出会うたびにその清楚で典雅な世界に引き込まれ、時を忘れたこともある。しかしながら、これらの作品と自分の興味とにどこか違いを感じていた。

 白黒メゾチントからカラーメゾチントへのもっとも大きな転機となったのは、1987年から翌年にかけ、研修のためアメリカ、フィラデルフィアに滞在していた時である。日帰り往復が可能なニューヨークへは度々出掛け、きまってニューヨーク近代美術館で一日の疲れを癒したものである。ここに常時展示されていたストライプの作家、バーネットニューマンの横5メートル、縦2.5メートルもの油彩の大作『英雄的にして崇高なる人間』に出会った。画面全体が鮮やかな朱色で覆われ、適所に白、黄色などのストライプのラインが数本走っているだけの簡潔な作品である。刺激的な朱色の色面に加え、緊張感のある色面分割、色面と線との対比の妙を感じ取った。早速、白黒に赤色のみではあったが私にとっては初とも言うべきカラーメゾチント作品『Reflection-Homage to Barnett Newman』と題する作品を作った。

 カラーメゾチントを制作し続けるなかで作品の表現上避けて通れない問題が出てきた。銅版画で色版を印刷する際、インクの持つ色彩本来の特質が損なわれてしまう事であった。いわゆる発色が鈍ってしまうのだ。明度並びに彩度の高い色彩に顕著であり、バーネットニューマン風の鮮烈な朱色など銅版画で表現するのはほとんど不可能かと思われた。

 版上のインクを寒冷紗で擦る際の摩擦が原因かと思い、拭き取る回数を極力少なくしたり、墨版となる主版以外すべてを比較的溝の浅いアクァチントで版をおこしたりもした。あるいはインクの粘着性を変えてみたりと、当時私が考え得るすべての試みに挑戦してみたが、いずれも満足する結果は得られなかった。試行錯誤の結果生みだしたのは凸版形式で印刷する方法であった。何のことはない、凹版としての銅版画のみにこだわり、身近に存在していた凸版に気付かなかったのである。凸版形式であればなにも変色効果の高い銅材を使う必要も無く、かって試みていたリトグラフで使用したアルミ板を切り取り、それをもって色版の代用とした。今では板の腐食もすすみ復刻するわけにもいかない代物ではあったが、捨てるに捨てられずにアトリエの隅で無用の長物となって眠っていた板である。まさに20年の眠りから覚めたのであった。ベタ板として使用するのはもとより、その他にジェソー、モデリングペースト等で盛り上げ、いろいろなテクスチャーを施す、所謂、コラグラフの技法を加えるのも可能であった。

 凸版形式に気が付くまでの凹版での試行錯誤は決して無駄ではなかった。例えば、色版に墨版を重ね刷りする場合、下になる色版の色を強調したい場合には、色インクをワニス等で軟らかくし心持ち多めに板に盛ればよく、その反対に色を抑えたい時には炭酸マグネシウムなどでインクを硬くし少なめに盛れば得られたのである。

 私の記憶が正しければ、かつて長谷川潔が浜口陽三の作品を『「これはマニエル・ノワール(*メゾチント)ではない」と言った』と、ある本で読んだ。潔癖性の長谷川潔にとっては、時としてニードル等を用いて縦・横の線を施して素地を作る浜口陽三の作品はメゾチントと言いたくなかったのであろう。あくまでもベルソーを用いて作られた素地の作品のみをマニエル・ノワールと呼んだ。それならば、私の作品にメゾチントと記すだけでもおこがましい気もする。

 
Division-work No.66”制作工程

 作品“Division-work No.66”を例に、具体的に制作工程を述べる。先ず、Fieldシリーズの一点で具体的に稲穂を描写し、畑の形態を抽象的に色面で表現した。図1においては左側の色面で“畑”をイメージし、右側の色面は金箔を貼り稲の実り“黄金”を表わした。

 1) 主版となる銅版は1 mmの板を用い、ベルソー65番および85番で必要な部分、いわゆる稲穂と畑になる部分のみ目立てを行う。

2) スクレパー、バニシャー等で削り磨き製版を行う。畑となる部分は黒のベタ板の状態。

3) リトグラフで用いたアルミ板を必要なサイズにカッターナイフにて裁断。版の完成。

4) 刷りにおいては、先ずアルミ板を凸版形式でインクを載せ、エッチングプレス機にて印刷後、直ちに主版であるメゾ版を重ね印刷。

5) 作品が完全に乾くのを待ち箔貼りを施す。

図1.Division-work No.66

図2.銅版

 アルミ
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